桜田課長の秘密
「他に誓約書に加えたいことは?」

ああ、もうっ、なるようになれ!

「では、キスも無しでお願いします」

「は?」

「初めてのキスは、好きになった人としたいんです」

ヤケクソで放った言葉だったが、目を見開いた課長の表情が優しく緩んでいく。

「可愛らしいことを言うんですね……やはり君は、この作品のヒロインにぴったりだ」

『分かりました』と頷いて、便箋にキスをしないことを追加した彼は、思いついたように言う。

「もしも約束を破ったら、君の残りの借金、全額お支払いしましょうか」

「えっ、いんですか!?」

「はい、もちろん。せいぜい僕を誘惑して下さい」

余裕の笑みは気に障るけれど。
ここまで言われて、断るという選択肢は無かった。

「分かりました。では、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

柔和な笑みを浮かべる、桜田課長。
この男の本性を知るのは、翌日のことだった。

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