お前が好きだなんて俺はバカだな
「先輩、ドってどこですか...?」

「...お前、ピアニカやってたんじゃないのか?」

「だって、そんなの昔の話ですから。
覚えてないです。」

「...これじゃ、全体で合わせられるのはかなり先になりそうだな。」

私たちは、音楽室を借りてそれぞれ楽器などの練習をしていた。

私が苦戦する側で、向こうで固まっている生徒会の先輩たちは思い思いに楽器を弾き鳴らしている。

...あの人たちは、頭もいいし、要領もいいし、飲み込みもはやい人たちばかりだから...。

「やっぱり、私なしでもいいんじゃないでしょうか...。」

「諦めるのははやいぞ。
まだ鍵盤との睨み合いだけだし、始めて5分も経ってない。」

「こんなおたまじゃくしみたいなの、1匹ずつ相手なんかにしてられないですっ!」

♪←おたまじゃくし...。

これが並んだり繋がったりするだけでどうして音が表せるんだろうか。

「音符に拒否反応が出るなら、アルファベットに簡略化しよう。」

「...AとかBとかですか?」

「そう。」

「でも、そんなのがどう関係...
きゃっ。」

先輩は私の手を掴む。

指を鍵盤の上に無理やり移動させた。

「...これがC。」

「...。」

「これがF。」

「...?」

「そのままひとつずつずらして、G、...Am...。
覚えた?」

「ええと...。」

「今日はとりあえず、この4つの指のパターンを覚えること。
ひとつとばしで3つ押さえる...これをこうやってずらしているだけだから、結野でもすぐに覚えられるはず。」

な、なるほど...?

先輩は、楽譜をさっと取り上げると、マジックで何か書き始めた。

見ると、さっき言ったアルファベットを楽譜の上に書き足している感じだ。

「Am、F、G、C。
最初の前奏は複雑に見えるけど、曲の流れとしては、この順番を2回繰り返してるだけだ。こういう感じで。」

先輩は立ったまま、ジャーン、ジャーンと弾いてみせた。

あ、すごい...なんか流れができてるかも。

「前奏の完成形はこう。」

さっきは、ただジャーンって単調な感じだったのに、今度は流れるような指の動きが追加されている。

「...でも、雰囲気(?)はさっきと同じ、なんですね。」

「それが分かるなら音感があるな。
上達も早いと思うよ。」

「そうですかね...?」

「俺の言う通りにすればな。」

「が、頑張ってみます...。」

先輩、頼もしい...。
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