異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「それでだ。お前の腕を見込んで頼みがある。一緒に来て欲しいところがあるんだ」
「頼み、ですか?」
「ああ。スイーツの依頼だ」

 そう言うと、彼はやっと繋いだ手をゆるめてくれた。
 私は、手をほどいてその場に立ち止まる。

「わ、わかりました。注文ならちゃんとお受けします。……ただ、その前に、お届け物にだけ先に行かせてくれませんか」

 籠の中には、今日の注文品である焼きたてのチーズケーキが入っているのだ。

「ああ、そうか。急かして悪かったな」

 話を聞く気がないのかと思いきや、こちらのお願いは聞き入れてくれる。どうもつかみどころのない人だ。

「じゃあ、こうしよう。今日はもう夕方だし、明日の昼過ぎ頃にここに来てくれないか? 俺はあのガス灯のところで待っているから」
「わかりました。明日ですね」
「よろしく。俺の名前はアルトだ」

 男――アルトは手を差し出してきたので、緊張しながら握手する。思ったとおり、すべすべしていて私よりキレイな手だった。

「エリーゼ・ホワイトです。親しい人はみんな、エリーと」
「エリーか。いい名だ」

 キラキラを無駄に振りまきながら、アルトは小走りで去っていった。

 そういえば、『やっと見つかった』って言ってたけど、もしかしてこの一週間、ずっと私を探していたのだろうか。でもそれならどうして、お母さんはこんな目立つ人に気付かなかったんだろう……。

 やたら美形の謎の男と、スイーツの注文。なんだか、面倒なことに巻き込まれそうな予感がする。結局、舞台俳優なのかどうかも確かめられなかったし。

 本当に引き受けてしまってよかったのだろうかと、その夜は緊張してなかなか眠れなかった。

 明日、彼とまた会うことにドキドキしていたのでは、決してない。
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