異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
 その日は休日で、私は寮の自分の部屋でクッキーを作っていた。施設に差し入れで持って行くためのおからクッキー。カロリー控えめだし、素朴な味でおいしいと、先生にも子どもたちにも好評なレシピだ。

 異変が起こったのは、クッキーをオーブンに入れてしばらく経ったとき。

 まだかなまだかな、とオーブンの中を眺めていた私の鼻に、焦げ臭い匂いが漂ってきた。お菓子の焦げた匂いとは違う、明らかに異質な匂い。

 おかしい、と思ったときには、寮のスピーカーから火災発生の放送が流れていた。火元は三階の、私の隣の部屋。

 まずい、と思ってドアを開けようとしたら、足がもつれて転んでしまった。立とうとすると足首に鋭い痛みがある。

 こんなときに捻挫だなんて、どこまでもついていない。

 白い煙がドアの隙間から流れ込んできて、まともに吸ってしまった私は盛大に咳き込む。

 朦朧とする意識の中で、おからクッキーを焼いていたオーブンがチーンと鳴るのを聞いた。


 ――ああ、どうせ死ぬのなら。

 一回だけでいい、好きな材料を好きなだけ使って、お菓子を作ってみたかった――。

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