異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「もちろん、おふたりのぶんは包んでおきました。持って帰って召し上がってください」
「そうか。ちゃんと用意してあるとは感心だな」

 やんちゃな息子を持ったお母さんが三者面談に来たときのように、ベイルさんは頭を下げた。

「……ずうずうしくてすみません」
「いえ、全然」

 もう慣れました、とは言えないので無難にそう答えておく。

「そうそう、今日のぶんのお代はね、木の実を集めてきたんだよ」

 ナッツくんがテーブルの上に乗せた布袋はずしっと重そうで、たくさんの木の実が詰まっていることがわかる。冬だし、これだけの量を集めるのは大変だっただろう。

「でも、やはり木の実だけでは申し訳ない。材料に使えるとは言っても、人間はそれほど木の実を食べないだろう。獣人でも金銭を稼げたらいいのだが……」

 ガルフさんはガルフさんで申し訳なく思ってくれているようだ。

 正直、売り上げは充分すぎるくらいなので、獣人さんたちのぶんをおまけしても商売は成り立つのだけど……。それではきっとダメなのだろう。

 う~ん、と頭を働かせていると、壁際にいたアルトさんがふたりの前に進み出た。

「お前たちは、人間に混じって働く気はあるか?」
「えっ」

 思いがけない言葉に、目が丸くなる。ベイルさんを見やると、私以上に驚いているみたいだった。

「無論。人間が受け入れてくれるなら」
「ぼく、人間好きだもん。仲良くなれるならなりたいよ」

 ガルフさんとナッツくんは、迷うことなくアルトさんの言葉に返していた。それだけ、獣人さんたちが長い間望んできたことだったのだろうか。

「獣人でも仕事を得られるような国か……。やってみる価値はありそうだな」
「でん……アルトさま、どうするおつもりですか? 」
「父上と兄上に提案する。こういうところで発揮しないと、俺が力を持っている意味がないだろ」

 ガルフさんとナッツくんが、顔を見合わせる。なんとなくアルトさんの正体に気付いたみたいだけれど、ガルフさんが「うるる」と小さくうなってナッツくんが頷いたあと、アルトさんに向き合った。

 ここは突っ込まないことにしよう、ということで意見がまとまったようだ。

「狼獣人だったら、護衛や用心棒の仕事で重宝されそうだ。人間より力があって五感が鋭いやつが多いんだから、うまく雇えば社会貢献できるはずだ」
「護衛か……。人を傷つけないように闘うのには慣れていないのだが、できるだろうか」
「そこは訓練してもらうしかないな。ただ、狼の姿なら、立っているだけで犯罪の抑止力にはなると思うが。まず普通の人間なら敵わないからな」
「僕は~?」
「リスは……人型だったら子ども相手の仕事ができそうだな。もとのサイズだったら、細かさを要求される仕事がよさそうだ。魔法石の彫刻とか」
「彫刻は得意だよ! 木彫りで小物を作るのが趣味なんだ。いつもは歯でやってるけど」
「それはそれで、稀少価値があってアリなのか……?」

 アルトさんの表情が、国民を支えようとする王子の顔になっている。ベイルさんよりは華奢な、ロイヤルブルーのフロックコートの背中が、こんなに広く頼もしく見えたことはあるだろうか。
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