異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
第四話 恋と竜騎士とチョコレート
 めまぐるしくも楽しい毎日を送るうちに、年末になっていた。

 ルワンド国では年越しもお正月も、家でのんびりする習慣があるため、お店は閉めてゆっくり休ませてもらった。昔は冬は食べものに困っていたらしいし、家で過ごすという文化も、なるべく出歩かずに保存食を節約するために生まれたんだと思う。

 アルトさんも、王宮でのんびりしているのだろうか。ベイルさんは、休みでも訓練をしているのかな、なんて考えたりもした。ほとんど毎日会っていたから、会えない期間が長いとそわそわした気持ちになる。寂しい、っていうのとは違うと思うんだけど。

 アルトさんはどうなんだろう。私のお菓子が恋しいって、ちょっと思ってくれていたりするのだろうか。

 ――そうだったら、どうだというのだろう。嬉しい? まさか。

 そんなの、だって、私がアルトさんに『恋しい』って、思ってもらいたいみたいじゃないか。
 暇だからいくつもできてしまった新作のスイーツを家族に振る舞いながら、愕然とする。

 いやいや、あれだけ『新作は一番に食わせろ』ってうるさかったから、気になってるだけだよね。作るときにアルトさんの顔が浮かぶのも、きっとそのせい。

 実際、年明けのオープン初日、アルトさんは新作のスイーツを全部食べていった。家族に先に食べさせたことは内緒にしておいたから、満足そうだった。
 ベイルさんは案の定、お正月も自主訓練を欠かさなかったらしい。

 そして、特に大きな出来事も事件もないまま、暦は二月を迎える。

「また今日も曇りかあ……」

 開店前。玄関前の掃き掃除をしながら空を見て、ため息をつく。ルワンド国の冬の寒さは、前世の日本と同じくらい。でも曇りの日が多く、日照時間も短いのだ。こう何ヵ月も続くと、お日様が恋しくて、なんとなく憂鬱な気分になってしまう。

 でも、もうちょっとの辛抱で春が来る。春が来たら苺も手に入りやすくなるし、お祭りもある。お正月が地味なぶん、春は国をあげて盛大なお祭りが催されるのだ。

 そうなったら、うちの店もお祭りに出店して売上を立てられる。ここのところ、今年一番の寒さのせいか客足が落ちているのだ。

 春は苺を使った華やかなスイーツ、夏はゼリーやムースを作れる。秋と初冬まではサツマイモ・栗・かぼちゃのスイーツでお客さまを呼び込めたけれど、この時期は店内に変化がなく、地味だ。

 前世の日本だったら、製菓業界にはバレンタインという一大イベントがあったんだけど……。

「せめてこの世界でもバレンタインみたいなイベントがあったらなあ。あ、でも、チョコレートがないから無理か」

 カカオがあれば作れるかもしれないが、市場では出回っていない。アルトさんなら知っているだろうか。チョコレートは無理でもココアパウダーがあればスイーツの幅が広がるし、今度聞いてみよう。

 そうのんきに考えていたのに、まさか早急にチョコレートが必要になるなんて、この時は思ってもみなかった。
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