あの空に手を伸ばして


「なんかいいね」

いまだはしゃぎまわっている信号機くんたちをみていたら、急にうらやましく思えてきた。

この人たちはきっと何も考えていない。

先のことなんて何も考えずに今を生きている。

いま、自分がやりたいことを自由にやっている。

檻みたいな教室にいるよりもよっぽど楽しくて、自由な世界。


でも、その世界に飛び込む勇気はなくて、わたしはいつもやっているように手を伸ばした。

そこにあるのは晴れている空とは全く違う空だけど、つかんでみたいって思った。

灰色に覆われた雲を抜け出せばきっと空は明るい。


・・・でも、やっぱり無理だ。

つかめないことを知ったいま、そんなことをすることさえ意味がないと思ってしまう。


わたしは伸ばしていた手を静かに下げた。

サクはわたしの行動になにも言葉を発すことなく横に立っていた。

ただ、信号機くんたちのうるさい声が響きわたっていた。
< 21 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop