Bitter Sweet
卒業証書を1枚ずつ校長に渡す。


その時に生徒の顔を1人ずつ見る。


少し不登校気味になってた子、数学がめっちゃ苦手で大苦戦してた子、授業の時推理小説ばっかり読んで怒られた子、いつも私と喋っていた子。


1人1人を見て2年間を思い出す。


初めて持った卒業クラス。


本当にみんなと出会えてよかった。


みんなと共に私も成長できた。


そういうことを最後のクラスの時間に言うと、思わず泣いてしまった。


泣いてる生徒もいる。


泣きすぎて袴を着ているからか呼吸がしづらい。


少し落ち着いて長めのホームルームが終わった。


写真撮影をし、親御さんにご挨拶をして、職員室に戻る。


もうあっという間に昼過ぎて、生徒はほとんど帰った。


袴を脱いでいつもの格好に戻る。


スカートにブラウスにピンヒール。


これが1番楽。


椅子に座って背中を伸ばす。


生徒は卒業して終わりだけど教師は残っている業務がたくさんある。


でもそこまで多くない。今日は早めに帰れそう。


帰る時に、3年の先生方と一緒にご飯兼飲もうということになり、荷物を纏めていたら、


「あれ…、うちの生徒じゃないな」


教頭が外を見ている。


私も窓の所に行って誰かと確認したら、陽の川高校の制服を着ていた。


誰かと顔を確認しようとも3階からの職員室からは顔がよく見えない。


でも、その生徒が職員室の方に顔を向けた瞬間、私は目を見開いた。それに私の周りが全て止まった気がした。もちろん私も。


身長は伸びているけど目元がはっきりしていて、顔がシュッとしているのは変わっていない。


蓮斗だ…


なんでここに…


まさかあの時の言葉が現実になるなんて。


いや蓮斗が現実にしてくれたんだ。


「すいません、先に行っててください、私遅れます」


私は蓮斗がいる校門前に向かった。


「蓬莱くん…?」


蓮斗は振り返った。


大人っぽくなってる。黒髪で前髪を流しているの変わっていない。


高校の制服を着ているから高校生だと認識できるけど、着てなかったら大学生に見える。


もうすぐ大学生になるのだろうけど。


「咲良、俺、……ずっとこの日を待ってた。もちろん青春期間は楽しんだ、思いっきり楽しんだ。でも忘れられない。もう卒業したし、俺のこともう生徒と見ないで、教師として俺を見ないで、1人の男として見てほしいから…付き合ってほしい。俺を受け入れてほしい……」


私の目を逸らさずに言った蓮斗。


2度目の告白。条件付きじゃなくて蓮斗の気持ちをストレートに私にぶつけた。


私も心の底にある思いを、2年間誰にも言わなかった思いをなんとか言葉にして表そう。


「この2年の間、蓬莱くんのことを生徒として頑張ってるかなって考えてた。」


蓮斗は少し目を細める。


「でも私も消えなかったの……私も好きだよ……修学旅行の時に俺のことをずっと待っててって言われて内心嬉しかった…だから待ってたよ…、蓮斗、来てくれてありがとう」


「じゃ俺と付き合うってこと?」


「はっきり言ってなかったね、付き合うよ、好きだから」


「もう離さないから」


蓮斗は私の耳もとでそう呟いた。


優しい小悪魔もずっと変わっていなかった。
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