ノクターン

2時少し前に受付から連絡があり、私は課長に付いて応接室に向かった。

ノックをしてドアを開くと中の男性が二人、立ち上がった。

一人は30代半ばでグレーのスーツ、もう一人は20代で濃紺のスーツを着ていた。
 

「本日は、ご足労頂きありがとうございます。」
 
「こちらこそ。お忙しい中、時間を作って頂きありがとうございます。」
 
課長と、年上の男性が挨拶を交わす。

私はなんとなく 若い方の男性の視線を感じていた。そして名刺交換。
 

「高村と申します。よろしくお願い致します。」

課長に次いで私も名刺を差し出す。

若い方の男性は、私の名刺を受け取ると
 

「やっぱり。軽井沢の麻有ちゃんだよね。」

と親しげに話しかけてきた。
 
私は戸惑い、受け取った名刺を再度見つめる。
 


「智くん?」柔らかな笑顔と名前がやっと一致した。
 
「久しぶりだね。でも麻有ちゃんだってすぐにわかったよ。」
 
「驚いた。私、全然気が付かなくて。」


私はひどく動揺していた。こんな形で智くんに会うなんて。

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