ノクターン

次に目を覚ました時は、部屋は朝日に満ちていた。

ぐっすり眠る智くんを起こさないように 私はそっとベッドを降りて バスルームに向かう。
 

体中にのこる智くんの余韻を 熱いシャワーで流していく。


昨夜の経験は、何だったのだろう。

今まで私が経験していたことと、全く違っていた。

押し寄せる波に、抗うこともできず。

羞恥心さえも失っていった。


考えているだけで、また体が熱くなっていく。
 



部屋に戻ると、智くんはベッドの中で目を開けていた。
 
「ごめんね、起こしちゃった。」
 
「麻有ちゃん、早いね。朝食まで まだ時間あるよ。おいで。」


智くんの甘い声に 私は引き込まれていく。

気持ちを切り替えるつもりで シャワーを浴びたのに。

初めて知った歓びの後では 私は無力だった。
 

朝日の中で交わす口づけは、優しくて甘美で。

昨夜から、少し慣れた私達は 早くも お互いの波をつかんでいて。

声を殺すことさえ できないほどの激しさに果てていく。

重ねる度に強くなる歓びに震えながら。
 


「私、どうかしちゃったみたい。」その後でつぶやいた私に
 
「いいんだよ。俺も同じだからね。」と智くんは優しく言った。
 

ようやくベッドから出た私達は、たっぷりと朝食をとって 一日 観光を楽しんだ。


ロープウエイに乗って、黒たまごを食べた。

芦ノ湖で遊覧船にも乗った。

はしゃいだり、笑い合ったり、美しい景色に感動したり。



すべてを共有して心も体も満たされていた。
 

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