屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜
・DRAGON FISH(ドラゴンフィッシュ)




「 じゃあ、ここの記入欄にね 」


受付に立ち、頷く灰谷
待合室には 俺達五人だけ


しかしスタジオ奥、Aの部屋から
リズム隊の、低い振動が伝わって来る


真木は思い付いた様に
ギターケースのジップを開けて
ピックの確認をし、また再び閉じた




「 ――… ねぇねぇ リュウジ 」


「 ん? 」


「 この曲ね…
"CheaーRuu"の DRAGON FISHだよ … 」


内緒話を伝える様に
椅子の背もたれへ、頬を預ける微笑み


「 うん 気がついてた 」




そして時折、音が止まるのは同じ場所


「 … 青山さん
教えてくればいいじゃん 」




前に立った灰谷も
やはり音に、気がついていた様で

会員カードを見つめながら
思ってもいなかった助言を寄越した


「 大きなお世話だろう 」


「 違いねえな 」


そう言った真木と
横で雑誌を見ていた池上が笑い
灰谷はそれに 不思議そうな表情を浮かべる


「 …そうかな
弾ける様になったら、嬉しいと思うけど 」


「 ―― なんだトオヤ
会員カード、ずっと眺めてやがって 」


「 … だって俺
スタジオの会員カード、貰うの初めてだ 」


「 な?!
って、スタジオ入ったコトあんだろ? 」


「 … あるけど
池上さんや、緑川さんが
ずっと通ってた場所で…
顔を見たら通してくれる感じだったし

後はずっと
事務所のスタジオ入ってたから… 」


「 ―― そういう点で
恵まれてんだよ、オメエは 」


「 … かな 」






< 105 / 234 >

この作品をシェア

pagetop