屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜
・DRAGON FISH(ドラゴンフィッシュ)
「 じゃあ、ここの記入欄にね 」
受付に立ち、頷く灰谷
待合室には 俺達五人だけ
しかしスタジオ奥、Aの部屋から
リズム隊の、低い振動が伝わって来る
真木は思い付いた様に
ギターケースのジップを開けて
ピックの確認をし、また再び閉じた
「 ――… ねぇねぇ リュウジ 」
「 ん? 」
「 この曲ね…
"CheaーRuu"の DRAGON FISHだよ … 」
内緒話を伝える様に
椅子の背もたれへ、頬を預ける微笑み
「 うん 気がついてた 」
そして時折、音が止まるのは同じ場所
「 … 青山さん
教えてくればいいじゃん 」
前に立った灰谷も
やはり音に、気がついていた様で
会員カードを見つめながら
思ってもいなかった助言を寄越した
「 大きなお世話だろう 」
「 違いねえな 」
そう言った真木と
横で雑誌を見ていた池上が笑い
灰谷はそれに 不思議そうな表情を浮かべる
「 …そうかな
弾ける様になったら、嬉しいと思うけど 」
「 ―― なんだトオヤ
会員カード、ずっと眺めてやがって 」
「 … だって俺
スタジオの会員カード、貰うの初めてだ 」
「 な?!
って、スタジオ入ったコトあんだろ? 」
「 … あるけど
池上さんや、緑川さんが
ずっと通ってた場所で…
顔を見たら通してくれる感じだったし
後はずっと
事務所のスタジオ入ってたから… 」
「 ―― そういう点で
恵まれてんだよ、オメエは 」
「 … かな 」