授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「私も父のことを黒川さんになかなか言い出せなくて、けど思い切って話したら全部受け入れてくれるって、そう言ってくれたんです」

すると紗季さんの表情が一変し、ざっくりと眉間に皺を寄せて手のひらをデスクに叩きつけた。思いのほか大きなその音に驚いて私が肩を跳ねさせると、紗季さんが鋭く私を睨んだ。

「慧介が全部受け入れてくれた? 冗談でしょ? それが彼の本音だと思ってるの?」

美人に凄まれるとものすごい迫力だ。ただ呆然と見返すことしかできない。

「どういうことですか?」

私は正直に黒川さんに全部話をして、彼もそれを受け入れてくれた。だから婚約した……けれど、そこに隠されているなにかがある。と、私は紗季さんに言われて直感した。

「慧介にとって、検察がどんなに目障りな存在なのか……あなたもしかして、彼の妹の話聞かされてないの?」

「真由さんの話なら聞いてます。今度会わせてくださいって言ってあるんですけど……」

そういえば、黒川さんが初めて妹さんの名前を教えてくれたときから真由さんの話題は一切していない。それを思うと自然と言葉が尻すぼみになる。そんな私を見て紗季さんは、無言でますます眉を寄せ力なく首を振った。

「真由は私の幼馴染でね、大学までずっと一緒だった。可愛くて、料理も裁縫も全部得意で少し天然なところもあったけど、私にないものを持ってる大親友だったの」

今まで私に鋭い視線を向けていた目が一瞬和らぎ、懐かしげにそして切なげに細められた。
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