授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「私、あなたが慧介の婚約者だって聞いたとき、少し納得したの」

「え?」

「慧介は真由が死んでからもずっと妹の影をどこかで追ってた。あなたはね、真由に似ているのよ。彼は妹を大切にしたい気持ちを恋愛とはき違えてるだけ。あなたは真由の面影に重ねられて見られてるお飾り婚約者なの」

私が真由さんに似てる? 恋愛とはき違えてるって、だから私と婚約したの?

――俺の四つ下で“真由”って言うんだ。

妹さんの名前を聞いたとき、どこかで耳にしたことがある名前だと思った。けれど、それがいつどこでだったか、そのときは思い出せなかった。

紗季さんに言われて呼び起こされた記憶がカチリと音を立てて型にはまると、黒川さんとカレーを作った日のことがふと、頭に蘇った。

――あ、よかったら黒川さんも少し味見してみますか? お口に合うといいんですけど……。

――マ……ユ……。

あのとき黒川さんが呟いたのは……妹さんの名前だったんだ。

接着剤で足の裏と床がぴったりとくっついたみたいに動かない。放心したまま立ち尽くしていると、紗季さんがデスクにマグカップを荒々しく置く。

「裁判で横領の事実はなかったと証明されても、間違った噂は簡単には消えないのよ。真由は会社にも戻れなくなって、そのうち精神を病んで外にも出られなくなった。それでも検察側は、そういう状態になった原因は後ろめたいことがあるからだろうってしつこく彼女を疑った。そのときの慧介の気持ちなんて、あなたにはわからないでしょうね。弁護士にとって検察は永遠の敵なのよ。だから検事を父にもつあなたを慧介が受け入れられるわけがない!」
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