授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
うっすら目を開けると、視線の先に爪が食い込まんばかりに掌を握りしめている彼の手が見える。私のために感情を乱し、怒ってくれている。それだけで満足だった。

「私、紗季さんに一度傷つけられた人権が世間の信用を取り戻すまでどんなに大変で辛いか、わかるかって聞かれたとき……なにも答えられませんでした。けど、今ならわかる気がするんです。紗季さんの気持ちも……」

黒川さんが短く息を吸って、くるりと私に向き直る。そして折れんばかりに私の身体を抱きしめた。

「だからって、君に嫌がらせをしていい理由にはならないだろ」

「紗季さんに散々言われて泣きましたけど、黒川さんの気持ちが私にあるならへこたれません。私、こう見えても結構打たれ強いんですよ?」

だから私は大丈夫です。と笑って見せると、眉尻を下げて黒川さんも笑みを返してくれた。

「まったく、君には敵わないな……」

彼の手が私の頬をなぞると、温かくて心地が良くてずっとその温もりに身を委ねていたくなる。

「君が真由に似ていて、それを俺が恋愛とはき違えてるだって? 確かに妹は大事な存在だったが、愛してる女性と混同するほど馬鹿じゃない。それに俺はそこまでシスコンでもないしな。俺は松下菜穂という女性を愛してるんだ。お飾り婚約者だなんて、誰にも言わせない」

私を見る黒川さんの目には揺るぎがない。芯の通った声はいつだって誠実で信じさせる力がある。

「黒川さん……」

彼は私の視線を捉えると隙を突くように唇に口づけを落とした。

「あ! だめですよ。風邪が移ったら……」

「そんな風邪、俺に移せばいいだろ。こう見えても結構頑丈だからな」

私の言った事に似せて言葉を返されると、可笑しくなって噴き出す。そんな私を見て、黒川さんは「愛してるよ、君だけだ」と甘く耳元で囁いた。
< 161 / 230 >

この作品をシェア

pagetop