授かったら、エリート弁護士の愛が深まりました
「荷物、重いだろ? 持つよ」

カレーと言われても、そのほかにもちゃんとサラダなどの付け合せを作るつもりだったから思いのほかたんまり買い込んでしまった。

「すみません。ありがとうございます」

「君とスーパーで買い物するのもなかなか楽しかったな。学生のとき妹とこうして……」

妹? 黒川さん妹さんがいたんだ。

そういえば黒川さんの家族について初めて聞く。何人家族なんですか?そう問おうとしたけれど、出かかった言葉を喉の奥で押し留めた。なぜなら、彼がなんとなく浮かない表情をしていて、遠い記憶を呆然と眺めているようなそんな目をしていたからだ。

「黒川さん?」

……あの顔、以前も。そうだ、思い出した。

黒川さんに弁護士になった理由を尋ねたときだ。一瞬、切なげに睫毛を伏せ顔色が曇ったのを見て怪訝に感じた。今の黒川さんの表情は、そのときと同じだ。

でも、なんとなく触れちゃいけない気がする。

「え? いや、なんでもない。腹減ったな、早く帰ろう」

胸の中にモヤッとしたものが燻るけれど、黒川さんが何かを取り繕おうとしたその“何か”に私は敢えて気づかない振りをした。
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