虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない
その噂がまことしやかに流れた為町の人たちは動揺し、私の耳にも届く程になっていた。
その日私は早々にガーランドさんの店に行った。

扉を開くとカウンターの席に座るロウが視界に入る。私もだけど彼も頻繁に町に来ているようだ。

「よお」

ロウが気さくに手を上げて挨拶する。

「こんにちは」

彼の隣の席に座る。初めに座ったこの席が、私の指定席になっている。

ガーランドさんに食事を頼み、待っている間にロウに噂について聞いてみた。

「町の噂、聞いた?」

既に耳にしているのか、彼は眉を顰めた。

「インベルの件?」

「うん。戦の準備をしているんじゃないかって。でも信憑性薄いよね」

「リセはあの国のことを知ってるのか?」

ロウの顔には意外だと書いて有る。

「知らないけど、カレンベルク王国はこんなに平和なのに、戦が起きるなんて思えないから」

それだけでなく私は先の流れを知っているからね。

少なくともあと三年ちょっと。アリーセが断罪される迄の間はどこの国とも戦は起きない。カレンベルク王国に外敵はなく天候も安定していて問題と言えば、国王をたぶらかし浪費を続ける王妃がいることくらいとされていたのだから。

それなのにどうして妙な噂が流れているのだろう。

考え込んでいると、ロウが私の頭にぽんと手を乗せた。

「そんなに心配するな。インベルの件はただの噂だ。戦になんてならないよ」
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