男女7人!?夏物語~アイドルHinataの恋愛事情【3】~

13 8月28日、宿題完了。

 
 そして、その三日後の夕食後。
 
「樋口くん、おまたせ。できたよ」
 
 化学のプリント(一枚しかない)と格闘していた俺に、中川が世界史のプリントの束を手渡した。
 
「おう、悪ぃな。中川は世界史が得意なのか?」
「得意というか、『世界の歴史』ってマンガとかよく読むんだ」
「へぇ……意外だな」
「そう? でも、広く浅く、なんだよね。試験に出ないようなマニアックなことは高橋の方が詳しいよ」
「僕のこと、なんか言うた?」
 
 夕食後の皿洗いをしていた高橋が振り返った。
 
「歴史の話。そういえば、前にさぁ、歴史上の誰かの話、してなかった?」
「あぁ……、織田信長?」
「そうそう、好きなんだったっけ? 信長」
「好きっていうか……、いつか、信長の役やってみたいねん。……っていうか、絶対やる。目標やねん、僕の」
「目標?」
「そうや。僕にしかでけへんような信長をやって、……で、『信長役といえば、高橋諒』って言われるようになるねん」
「信長の、どこがそんなにいいんだ?」
 
 俺が問うと、高橋は皿洗いの手を止めて、
 
「語ってもええけど、長いよ? 三日は寝かさへんよ?」
 
 と、笑いながら言った。
 普段あまりしゃべらないおまえが『信長』についてだけで、どんだけ語ることがあるんだよ?
 
「……ところで、高橋。数学の問題集はどこへやったんだ?」
「ん? あぁ、えっと……僕のカバンの中や。ちょっと待っててや」
 
 高橋はタオルで手を拭いて、自分のカバンの中から数学の問題集を取り出した。
 
「……こんな感じで、どうやろうか?」
 
 ……まさか、答えまる写し、とかじゃねーだろうな? (いや、何もやってないよりは全然マシだが)。
 
 問題集を受け取った俺は、開いて中を確認した。
 見ると、数式やらなんやらがびっしり書かれている。
 赤ペンで丸バツが付けられていて、ところどころ間違っているところには、赤ペンで正しい式や答えが書いてあった。
 
「ちゃんと、樋口くんがやったようになってる?」
「これ……まさか、おまえが自力で解いたのか?」
「うん、もちろん」
「おまえの中学は……私立の進学校か?」
「いや? 普通の公立中学やけど?」
「じゃぁ……なんでこんな問題解けるんだ? 俺もまだ習ってねーんだけど?」
 
 と、俺は問題集の後ろの方のページの、赤丸がつけられている問題を指差した。
 
「えっ? 習ってへんの? しもたなぁ……てっきり、こんくらいできるはずやと思うた……」
 
 高橋は、ぽりぽりと頭をかきながら、俺がさっきまで格闘していた化学のプリントに目をやった。
 
「……あ、樋口くん、この化学式、間違うてるで」
 
 高橋よ、おまえはいったい何者なんだ?
 
 
 
 
 
「あー、お腹すいた。何かナイ?」
 
 少しだるそうな顔つきで、希が自室から出てきた。
 
「希、大丈夫か? 疲れてんなら、早めに休めよ?」
「そりゃー、疲れるよ。この問題集、答えが間違いだらけナンだよ」
 
 そう言って、希は俺の前に英語の問題集を突き出した。
 
「間違いだらけ?」
「そーだよ。こんなしゃべり方してるガイジンなんて、見たコトないよ。だから日本の英語教育は間違ってるんだ」
 
 希は、戸棚からスナック菓子を取り出した。
 
「コレ、誰が買ってきたの?」
「……あ、それ僕やけど」
「高橋が? へぇー……食べてもイイ?」
「ええけど、味の保証はでけへんよ」
「あぁ、高橋ってちょっと人とズレてるところがあるからね」
 
 袋を開けて、中身をひとつ口に放り込んだ希は、食器棚から皿を一枚取り出した。
 
「まぁ、とりあえず終わらせておいたからさ。他の宿題は終わったの?」
 
 希は皿にスナック菓子を半分くらいあけて、高橋に手渡した。
 
「おぅ、後は、俺の化学のプリントだけ……」
「あ、それなら今終わったで?」
 
 高橋が、スナック菓子を口に運びながら言った。
 
「じゃぁ、もう全部終わりなんじゃない? よかったね、間に合って」
 
 そう言った中川は、スナック菓子を一口かじって、笑顔を硬直させた。
 
「………………なにこれ」
「なんだ、そんなに……アレなのか?」
 
 俺も好奇心で……一口。
 
「………………これは、販売したら駄目だろ」
「『スイカわさび味ポテトチップス』だって。スイカとわさびとじゃがいもに分けて食べればヘーキだけど、口直しは欲しいよね」
 
 そう言いながら、希は冷蔵庫の中をのぞいた。
 ……どうやって、スイカとわさびとじゃがいもに分けて食うんだ?
 
「……そうかなぁ。僕はなかなかいけると思うんやけど」
 
 少年誌を片手に『スイカわさび味ポテトチップス』をつまむ高橋を、俺と中川は苦笑いしながら見つめた。
 
「宿題終わったんだったらさ、明日から静岡に行ってきてイイよ」
 
 冷蔵庫から取り出したプリンのフタをはがしながら、希が言った。
 
「明日?」
「うん。今日が28日でしょ。明日静岡に行って、始業式が終わったら東京に戻ってくればイイよ」
「そんなに早く帰ってもよ、やることもねーし。前日で構わねーんだけど」
 
 ……っつーか、本当は始業式にも行きたくねーんだけどよ。
 ガッコー行けば、嫌でも美里の顔見なきゃなんねーじゃねーか……。
 
 あぁ~~~くそっ!! なんで同じクラスなんだよっ!!
 こんなことなら、あんなことしなきゃよかったな。
 ……あ、でも、あんなことしてなきゃ、こんなことにもなってねーのか。
 
「始業式って、9月1日? そーだ、その日ガッコーが終わるころに……」
 
 希が何か言ってるようだけど、俺には聞こえてこなかった。
 ぬぅぅぁあぁぁぁああぁぁあぁぁあっ、もやもやするっ!!!
 
 
 
 
 
 
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