妖しな嫁入り
誓いの花
 ようやく下ろされたのは見慣れた場所に降り立ってから。
 門の前には見知った顔がいくつもある。町で別れたきりの野菊は無事な様子だが俯いているので表情は読めない。隣にいる藤代は難しい顔をしていた。
 とたんに野菊は駆けだそうとして足を止める。不自然な動きは何かに躊躇っているようだ。

「野菊?」

 ならばと、私から歩み寄ることにする。これからはそうしていこうと決めたから。
 それなのに、朧は残酷なことを口にする。

「椿。今回のことは野菊が仕組んでいた」

「朧、何を言って……」

 嘘であればどんなによかっただろう。けれど、わかっていた。朧はたちの悪い嘘を吐くような妖(ひと)じゃない。ただ信じたくないと駄々をこねているだけ。

「こいつは緋月と繋がっていた」

「本当なの、野菊?」

 信じたくないと、何かの間違いであることを願っていた。

「椿様を襲った妖を手引きしたのは彼女なのですよ」

 朧に変わって続けたのは藤代だ。そこにいるのは出迎えのためではなく野菊を警戒してのことだろう。

「そして我らが主の大切なお方をあのような人間たちに差し出した。その所業は罪深い」

 穏やかなはずの表情は強張り唇を噛みしめている。それだけで真実だと語っているも同然だ。

「藤代様。どうか、私から話すことをお許しいただけないでしょうか」

「私も野菊の言葉で聞きたい。お願い、聞かせて」

 野菊の存在はただの妖から姉のような存在へと変わっていた。きっと野菊だけじゃない。仮に藤代であっても同じことを願ったはずだ。
 そんな相手だからこそ、たとえどんなに辛辣な内容でも彼女の口から聞きたい。彼女の言葉を聞いて、受け止めたいと思う。

「あなた様が憎かったのです」

 私が憎い、そんなの当たり前。人間で、何度も妖を狩って……憎まれて当然のことをしてきた。それなのに皆、優しいから。温かな生活に慣れ過ぎて立場を忘れ始めていた。

「朧様は大切なお方。それがどうして、急に現れた人間を受け入れられましょう。そんな私の気持ちを見透かしてか、緋月様からお声がかかったのです」

 きっと野菊だけじゃない。誰もがそう感じていたはず。覚悟していたのに、今になって本当の意味で直面することになるなんて……

「私が緋月様の使役する妖を手引きしました。けれど計画は失敗に終わり……私が引き継ぐようにと。あなた様を亡き者に、それが緋月様からの命でした」
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