きっとこれは眠れない恋の証明。

黒瀬京 side



「…ん?」

新聞を取りに一階のエントランスに降りると、ジャケットの中にしまっていたスマホが着信で震えるのがわかった。

画面を確認すると、着信は母からだった。

『もしもし京?』

電話越しに久しぶりに聞く母の声は小さく、明らかに力なかった。

「久しぶり、母さん。急にどうした?」

桜に対する悪質な嫌がらせがまさか俺の母にまで及んだのかと疑ったが、それは違った。

『お母さんが倒れたのよ。今朝お父さんから連絡があって…。救急車が来た頃にはもう息をしていなかったそうよ。死因はまだわからないって』

祖母が亡くなったといった知らせだった。

「婆ちゃんが…?」

『…急で悪いんだけど、京も埼玉まで来られる?』

そんな母の言葉に直ぐにうなずけなかったのは、桜の事が気がかりだったからだ。祖母の家は埼玉にある。桜の側から2日も離れるのは心苦しいが、小さな頃からよくしてくれていた祖母の通夜と葬式に出ないなんていう選択肢は無い。

「わかった、直ぐ行くよ」

そう言って電話を切り、新聞を郵便受けから受け取ってから桜の部屋へと戻った。
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