きっとこれは眠れない恋の証明。

いつも車だとシュンシュンと秒で通り過ぎていく景色が、歩いてみると驚くほどゆっくりと流れる。都内だから風情もあまりないけれど、こうやって歩いたり散歩したりするのは何だか楽しい。

…けど。

(あれ、ここをどっちに曲がるんだっけ?)

スーパーへの道のりはバッチリ頭に入っている自信があったのに、いざ一人で行くとなると進むべき方向に自信が持てない。
…というかさっきまがった曲がり角って、これであっていたのだろうか。

冷や汗をうっすらとかきながら、何度も進んできた道を振り返る。

(もしかして、道に迷った…?)

でも、今のご時世ちょっと道に迷ったくらいでそんなに焦らなくても大丈夫だ。すぐにスマホで道を検索すればいい。だから大丈夫。

そう心の中で余裕たっぷりに呟きながら、スマホを取り出そうと鞄の蓋を開いた。

…が。

「え……あれっ?」

何度見ても探しても、鞄の中にスマホは見当たらない。というか、思い返せば鞄の中にスマホを入れた記憶もない。

今度こそ本当に焦って、サァッと頭から血の気がひいた時。
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