二度目の結婚は、溺愛から始まる

「見ました? 松太郎さん。見事なお手並みでしたわね!」

「うむ。やはり雪柳くんは、椿の扱いを心得ておるようだな」

「一度落としてから、持ち上げる。完璧ですわ」

「早いところ入籍させなくては、順番があべこべになってしまう」

「あら、最近は授かり婚も普通ですよ」

「しかし……」


振り返れば、廊下の角で言い合っている祖父と志摩子さんの姿があった。


「二人とも……何をしてるの?」


祖父と志摩子さんは、シラを切ることにしたらしい。


「松太郎さん、今日は朝のお散歩がまだでしたよね? お付き合いしますわ」

「うむ。日課を欠かすわけにはいかんからな。一時間ほどで戻る予定だが、もしもその間に帰るなら、車を呼びなさい。椿」

「まだ帰らないけれど……」


中途半端になっている部屋の片づけをしてしまおうと考えていた。


「では、帰って来たらお茶をご用意しますわね?」

「おお、そうだ。あそこの店の団子を買って来ようか、志摩子さん。この時間なら、もう開いているだろう」

「そうですね」

にこやかに会話を交わしながら、二人はそそくさと玄関から出て行ってしまった。


(あの二人に柾が加わったら……)


現在、海外出張中の兄のことを思い、身震いする。

祖父以上にひとの話を聞かない兄だ。
婚姻届けを勝手に提出されるだけでなく、結婚式やら披露宴までお膳立てされそうで怖い。


(考えたくない。とにかく、いまは……)


とりあえず自分にできること――部屋の片づけに取りかかることにした。


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