二度目の結婚は、溺愛から始まる

蓮は、プライドの塊のような人ではないけれど、自制心が強い。
相手が兄のような古い友人でも、そう簡単に弱気な姿をさらしたりしないと想像がつく。年下の元妻ともなれば、余計に弱っている姿を見せたくなかったはずだ。

でも、そのおかげで、遠く離れていると思っていた蓮の背中が、手を伸ばせば届く距離にある気がしたのだ。

もう一度、七年前から始めることはできない。
だから、いまできる何気ないこと――たとえば、毎朝一緒に朝食を取ることとか――をひとつずつ積み重ねていく。

その先に、探していた答えがあるような気がした。


バスルームから聞こえて来る物音と時計を見比べて、逆算しながらコーヒーを淹れる準備を始める。

先日買ったコナコーヒーの豆を電動ミルにかけ、お湯を沸かす。

ダイニングテーブルにカトラリーやサラダ、蓮がリクエストした別皿のオレンジをセットしてから、自分の分のフレンチトーストを先に焼き、ドライヤーの音を合図に蓮の分に取り掛かる。

食パン一枚で、あの大きな身体を満たせるはずがないので、砂糖の代わりに塩コショウで味をつけ、ハムとチーズでボリュームを加えた。

着替えた蓮がテーブルに着くと同時に、淹れたてのコーヒーと共にサーブして……我ながら、完璧なタイミングだ。


「カフェ並みだな?」

「プロだもの」


自分の分のフレンチトーストをさっと温め直し、向かい合って座る。


「いただきます」


目の前で朝食を口に運ぶ蓮は、十五分前と同一人物だとは思えない。

髪を整え、着替えたいまは、いかにも仕事ができそうなビジネスマンだ。
女性は化粧で変わると言うけれど、男性だって着ているものや髪型で、かなり変わる。


(そうだとすると……どの蓮が一番好きかしら?)

< 136 / 334 >

この作品をシェア

pagetop