二度目の結婚は、溺愛から始まる

「でも、上手くいってるようで安心したわ。ね? 涼」

「ああ。にやけた顔してる」

「してないわよ」


思わず両手で頬を覆ってしまったが、今朝鏡に映っていた自分の顔は「普通」だった。

愛華は、むっとして涼の後頭部を睨むわたしを振り返り、彼の言葉を言い換えた。


「表情が柔らかくなったし、昔みたいに笑えてるってことよ」

「昔みたいって……何も、変わってなんか……」


一時は、何をしても嬉しいとか楽しいと思えず、笑えなかった。
でも、日本を離れて、笑えるようになった。
むしろ、日本にいた頃よりも笑っていた。


「椿が一番いい笑顔を見せるのは、気がついたら笑ってる時なの。意識せずに笑ってる時なのよ。たとえば、いいアイデアが浮かんだ時とか、ひと口飲んだコーヒーが美味しかった時とか、ほほえましい光景を見た時とか……蓮さんを見つめている時とか」

「あと、蓮さんのことを考えている時だな。妄想している時は、完全に(・・・)ニヤけてるけどな」

「も、妄想なんかしてないわっ!」

「蓮さんみたいな男が、そこら中にゴロゴロいると思ったら大まちがいだからな! ちゃんと捕まえておけよ!」

「誰にでも、やり直せるチャンスが巡って来るわけじゃないんだから、二度目の出会いは大事にしなさいよ?」


上から目線の二人に、つい反発したくなるけれど、言われたことはまったくもって正論だ。


「わかってる」

「今日にでも、帰って来るんだろ? たっぷり甘えなさい」

「妄想だけじゃ、欲求不満になるしな」

「涼っ!」

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