二度目の結婚は、溺愛から始まる

蓮が、蒼のようにワガママに思えるほど本音を見せてくれたなら、あれこれ推測し、勝手に不安を積み上げることもないのかもしれない。

紅さんが、ポットから花柄のカップに飴色の液体を注ぐ。
ふわりと漂う優しい花の香りは、女性らしい印象だ。


「だから、わたしも蒼には、嫉妬したり、腹を立てたりしていることを正直に言うことにしています。そうしないと、蒼も言えなくなってしまうから」


ふっと目線を上げた紅さんは、わたしを見つめて微笑んだ。


「雪柳部長は、人の気持ちに敏感です。誰かが辛い思いをしているのを見過ごせない。きっと、同じように胸を痛めてしまうから。本当はとても繊細な人なんだと思います」


ただの部下の感想とは思えない言葉だった。

蓮の一方的な思いではなく、彼女も蓮に惹かれていたのかもしれない。
一時であっても、二人の間には上司と部下以上の関係があったのかもしれない。

そう思った瞬間、胸の奥が引き絞られるように痛んだ。


「どうぞ」

「いただきます」


差し出されたソーサーを受け取ったが、カップを持ち上げられなかった。
震える手でそんなことをすれば、確実にぶちまける。

紅さんは、故意か無意識かわからない自然さで、話題を変えた。


「コーヒーをお出しできればよかったんですが、蒼につられてすっかり紅茶派になってしまって……。蒼から、椿さんの本業はバリスタだとお伺いしました。やはり、飲むのはコーヒーだけ、紅茶は飲まないんですか?」

「そうですね。選ぶとなると、やっぱりコーヒーですね。いろんな味を知るのは勉強になるので。でも、ほかのドリンクが嫌いというわけではないんです。紅茶も日本茶も飲みます」

「わたしも時々利用させていただくんですが、カフェ『TSUBAKI』は椿さんが始めたお店なんですよね?」

「ええ。友人と一緒に立ち上げて、共同経営者をしていたんですが……つい先日、辞めました」

「辞めた? どうしてですか?」

「長く日本を離れすぎた、というのが一番の理由ですね。味やお店のスタイルなど、違和感を覚えて。夢も目標も、時が経てば少しずつ変化するものなんだと思います」

「雪柳部長への愛情も?」

< 148 / 334 >

この作品をシェア

pagetop