二度目の結婚は、溺愛から始まる

蓮は、ちょっとバツの悪そうな顔をして、全部が全部自分用ではないと言い訳する。


「会長が先日飲んだ時、ここの地酒が美味いと言っていたんだ」

「お土産なんて渡したら、また一緒に飲みたいって言うわよ? お祖父さま」

「喜んで付き合うさ。ところで……お義父さんは酒を飲まないと聞いたから、出張ついでに定番の土産を買って来たんだが、甘いものは嫌いじゃないよな?」


わたしは、手土産のことなんてすっかり頭から抜けていた。さすが元営業だ。


「お母さまの手作りお菓子も喜んで食べるって聞いているし、大丈夫だと思うわ」

「ダメなら、後日何か見繕って送るか……」

「そこまでしなくても……。そういうことに、うるさい人ではないと思うけど?」


義父も母も、礼儀や常識を重んじる人ではない。
わたしたちが顔を見せるだけでも、喜んでくれるはずだ。


「できるだけ、心証を良くしておきたいんだ。椿との付き合いを反対されたくない」

「誰も、反対なんてしないわよ」


わたしの家族が蓮との付き合いを反対するなんて、あり得ない。みんな「大歓迎」と口を揃えるはずだ。

しかし、蓮は軽く首を振り、自嘲を滲ませた声で否定した。


「椿を幸せにできずに、離婚した不甲斐ない夫だ。二度と顔を見せるなと言われても、おかしくない」

「……本気でそう思ってるの?」

「事実だろ」

「事実? 蓮が勝手にそう思っているだけでしょう? わたしは、蓮と結婚したことを後悔していない。幸せじゃないなんて思ったこともない。二度と不甲斐ない夫だなんて言わないでっ!」


これ以上、自分を責めてほしくないし、自信を失くした蓮を見たくない。

蓮が別れた百合香の力になろうとしたのは、わたしの父が彼女を弄んで切り捨てたから。

わたしが事故を起こしたのは、蓮と向き合おうとせずに、逃げてばかりいたから。

蓮は、何一つ悪くない。負い目に感じることなど、何もない。

何より、蓮に離婚を強要したのは、わたしとわたしの家族だ。
不甲斐ないだなんて思うはずがなかった。


「蓮は、いまも昔も、わたしにとって最高の夫よ」

「…………」


蓮はあっけに取られて固まっていたが、なんとも言えない表情で呟いた。


「椿……自分が何を言ったか、理解しているか?」

「本当のことを言っちゃいけないの? どうしてわたしが、恋人も、再婚もできずにいると思ってるのよっ!?」


蓮と別れてから、いろんな人と出会った。
好意を寄せてくれる人もいたし、実際にお付き合いを試みたこともある。

でも、蓮以上に好きになれる人はいないと――蓮以外好きになれないと知るために、付き合ったようなものだった。


「……蓮以上の人なんて、いない」

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