二度目の結婚は、溺愛から始まる

わたしの背に腕を回した蓮は、少し間を置いて、抱えていた思いを吐き出した。


「もう使うこともなく、必要のないものだとわかっていた。でも……どうしても、捨てられなかった。なかったことには、したくなかった。存在していなかったことには、したくなかったんだ」


肩を濡らすのは、濡れた髪から滴る水ではない。


「蓮。大事にしてくれて……寂しくないように、わたしの代わりにいつも一緒にいてあげてくれて……ありがとう」

「……っ」


わたしを抱きしめる力の強さは、蓮が耐えてきた孤独の大きさだった。
堪え切れない嗚咽は、蓮が飲み込んでいた苦痛の叫びだった。

何もかも投げ出し、逃げ出してしまえばいいのに、蓮はそうしない。人のことばかり優先して、自分の苦しみは我慢する、不器用な人だ。

蓮には、いつも笑っていてほしかった。
でも、それだけでは「幸せ」に足りなかった。

喜んだり、怒ったり、笑ったり、泣いたり。
ありのままでいてほしいと思う。

わたしが、蓮の前ではそうであるように。

どんな姿を見せられたって、嫌いになんかなれないのだから。


いまでも、わたしは蓮に相応しい女性ではないかもしれない。
これからだって、相応しい女性にはなれないかもしれない。

でも、そんなわたしでも傍にいてほしいと言ってくれるなら、離れずにいたい。



いまのわたしが、いまの蓮に抱いている気持ちは、あの頃と同じではない。




蓮のことは、好きではない。




好きではなくて――、








愛している。

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