二度目の結婚は、溺愛から始まる


「偶然、近くにいたらしい。外で待ってるから、行くぞ」

「え、え……カバン……」

「もう積んだ」


店の外には、なんだか見覚えのあるシルバーの車が停まっていた。

兄がいまどんな車に乗っているのか知らなかったが、運転席を確かめる間もなく、二人がかりで抱えられ、後部座席に放り込まれる。


「椿をお願いします」

「おやすみ、椿」

「え、あ! 涼っ! 愛華っ!」


二人がドアを閉めるなり、車は滑らかに走り出す。


「……いったい、どれだけ飲んだんだ?」

「えーと……ビールをピッチャーで、ワイン、焼酎、サワー……メニュー一巡したかな。ちゃんと水も飲んでたけど」


運転席から、舌打ちが聞こえた。


「飲みすぎだろ」

「まあね……でも、学生の時はこれが普通だった」

「とんだお嬢さまだな、まったく。よくお持ち帰りされなかったな?」

「だって、先に相手の方が潰れるから」


学生同士の飲み会は、先に酔ったもの勝ちだ。
最後の最後までシラフでいれば、後始末と介抱で酔いも醒める。


「むこうでも?」

「そうね……でも、むこうでは、あんまり飲まなかったから」


あちらでは、酒浸りの生活を送る暇がなかった。

毎日バールで働き、元気がよすぎる瑠璃の子どもたちの面倒を見るだけでクタクタ。お酒の力など借りずとも、ぐっすり眠れた。


「いい感じになっている男がいたと聞いたが?」

「男? そんなのいな……」


笑って否定しようとしたわたしは、三か月だけお付き合いした人のことを思い出した。


「あの人とは、三か月で終わったわ。キスが、好きになれなかったから」

「キス……?」

「んー、下手ではなかったけど、気持ちよくはなかった」

「…………」


割り切った付き合いをするという選択肢もあったが、その気になれなかったのは、キスをするたびに、違和感を覚えたから。

彼との「キス」は、わたしがしたい「キス」ではなかった。


(正確に言えば……わたしが「キス」したいと思っている人じゃなかった)


目をつぶり、心地よい揺れにまかせてウトウトしている間に、マンションに着いた。


「着いたぞ」

「んー、眠い……」

< 67 / 334 >

この作品をシェア

pagetop