年下の彼は甘え上手で困ります
翌日の土曜日。
私の心配が杞憂に終わったことを実感せざるを得なかった。
開店と同時に、何人もの人が列を成して、順に弾いていく。
さながら、コンサートホールにいるかのような素晴らしい演奏もあれば、たどたどしく、思わず「頑張れ!」と応援したくなるような演奏もあった。
誰かのファンなのか、ピアノを弾くのではなく、ひたすら動画に収めている女の人もいる。
そのせいか、うちの店も一日中、大忙しだった。
ピアノの横に、小学生のブランコの行列のように並ぶ人たちが、演奏を終えると、次に並ぶまでの間にコーヒーを買い、そのまま再び列に並ぶ。
そうして、飲み終える頃に演奏の順番が来る…といった感じでうちに来るから。
「お待たせしました」
私は黒い大きなトートバッグを肩から下げた学生さん風の男性にコーヒーを手渡す。
「ありがと。
ね、お姉さんの名前、何て読むの?」
男性は私のネームプレートを指差して尋ねた。
「ふふっ
そうですよね、読めませんよね」
私のネームプレートには、漢字で《春野純鈴》と書いてある。
「でも、言うと、たいてい笑われるので、
内緒です」
私は笑顔でかわす。
「ええ!?
そんなこと言われると、余計に気になる。
ねぇ、絶対に笑わないから、教えて」
彼は、とっても背が高いイケメンさんなのに、まるで子犬のように人懐っこい。
「じゃあ、内緒にしてくれます?」
「うん、するする!」
ふふっ
かわいい。
「私の名前は、《はるの すみれ》です」
私はこの名前のせいで、昔から自己紹介のたびにクスクス笑われてきた。
両親は、決して狙って付けたわけではなく、澄んだ音色で鳴る鈴のように、みんなに癒しを与えられる子になってほしいとの思いで付けてくれたらしいが、つける前に名字との繋がりを気にして欲しかった。
「へぇ、かわいくていい名前じゃん。
お姉さんにぴったり。
純鈴さんって呼んでいい?」
えっ?
「あ、はい」
「じゃ、純鈴さん、また来るね」
その男性は、笑顔で帰っていった。
全く笑われなかった上に、褒められた?
こんなの初めてかも。
私は、呆然と彼を見送った。
私の心配が杞憂に終わったことを実感せざるを得なかった。
開店と同時に、何人もの人が列を成して、順に弾いていく。
さながら、コンサートホールにいるかのような素晴らしい演奏もあれば、たどたどしく、思わず「頑張れ!」と応援したくなるような演奏もあった。
誰かのファンなのか、ピアノを弾くのではなく、ひたすら動画に収めている女の人もいる。
そのせいか、うちの店も一日中、大忙しだった。
ピアノの横に、小学生のブランコの行列のように並ぶ人たちが、演奏を終えると、次に並ぶまでの間にコーヒーを買い、そのまま再び列に並ぶ。
そうして、飲み終える頃に演奏の順番が来る…といった感じでうちに来るから。
「お待たせしました」
私は黒い大きなトートバッグを肩から下げた学生さん風の男性にコーヒーを手渡す。
「ありがと。
ね、お姉さんの名前、何て読むの?」
男性は私のネームプレートを指差して尋ねた。
「ふふっ
そうですよね、読めませんよね」
私のネームプレートには、漢字で《春野純鈴》と書いてある。
「でも、言うと、たいてい笑われるので、
内緒です」
私は笑顔でかわす。
「ええ!?
そんなこと言われると、余計に気になる。
ねぇ、絶対に笑わないから、教えて」
彼は、とっても背が高いイケメンさんなのに、まるで子犬のように人懐っこい。
「じゃあ、内緒にしてくれます?」
「うん、するする!」
ふふっ
かわいい。
「私の名前は、《はるの すみれ》です」
私はこの名前のせいで、昔から自己紹介のたびにクスクス笑われてきた。
両親は、決して狙って付けたわけではなく、澄んだ音色で鳴る鈴のように、みんなに癒しを与えられる子になってほしいとの思いで付けてくれたらしいが、つける前に名字との繋がりを気にして欲しかった。
「へぇ、かわいくていい名前じゃん。
お姉さんにぴったり。
純鈴さんって呼んでいい?」
えっ?
「あ、はい」
「じゃ、純鈴さん、また来るね」
その男性は、笑顔で帰っていった。
全く笑われなかった上に、褒められた?
こんなの初めてかも。
私は、呆然と彼を見送った。