熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 

「ぽん太さんは、知ってる?」

「もちろん知っとるとも。初代の頃から通いつめているが、あの店のビーフシチューは、それはもう絶品じゃよ」


 モフモフの尻尾を揺らしながら言うぽん太を前に、花は頬に手を当て絶品ビーフシチューの姿を想像した。

 熱海通のぽん太が唸るのだ。やはり相当、格別な一品に違いない。

 文豪たちに愛された味が銀色に光るスプーンに乗る姿を思い浮かべた花は、思わず鼻をスンと鳴らした。


「うん……よしっ。そしたら傘姫には、熱海ならではの素材を使った、絶品ビーフシチューをお出しするよ!」


 ひと通りの話を聞いたちょう助が、覚悟を決めたように開いていたノートを閉じた。

 確かにビーフシチューであれば、一品料理としてお出ししても違和感はないだろう。

 とろとろのお肉と洗練されたデミグラスソースを作るのには、大変な手間ひまもかかるに違いない。


「あ、味見なら、いくらでも協力するからいつでも言ってね……‼」


 すぐさま手を挙げた花は、やはり花より団子である。

 キラキラと目を輝かせた花を前に、ちょう助は「よろしく」と言ってハイタッチした。


「ああ……でも、ちょう助くんのビーフシチューも楽しみだけど、いつかその老舗洋食屋さんの絶品ビーフシチューも食べてみたいなぁ」


 文豪たちを唸らせた味。是非体験したいと思うのは、花ならずとも右に同じだろう。

 
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