熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「なぁ、八雲。お互いのためにも、もうこれしか道は残されていないと思わんか」


 このクソだぬき……と、ここでようやく、まんまとぽん太の策にハマったことに気がついた八雲は、(ほぞ)を噛んだ。


「なぁ、花。お前さんもそれでええら?」


 そして花もまた、ぽん太の提案に頷くほか、道は残されていなかった。

 寧ろ、あくまで"嫁候補"であれば、実際に結婚をせずとも済む。

 そのうちに一年が経ち、一年分の善ポイントを貯めて支払ったら、花はさっさとここから出ればいいだけの話なのだ。

 それはまた八雲も然り、とりあえず一年間だけでも周囲からの「早く結婚」攻撃を交わせるのならと考えてしまうほど、嫁取り問題に八雲自身も辟易していた。


「……わかりました。そしたら今日から一年間、どうぞよろしくお願いします!」

「……チッ」


 覚悟を決めて頭を下げた花とは対象的に、八雲は苦虫を噛み潰したような表情で舌を打った。

 そんな花と八雲を見てぽん太と黒桜のふたりは、晴れ晴れとした表情をしていて、今にも踊り出しそうである。


 ──まだ、冬の寒さに手足が痺れる頃の話だ。

 これから始まる前途多難の付喪神たちとの同居生活。

 けれど花は不思議と嫌な気はしておらず、小さく息を吐いたあとで鏡子のいた金襴袋をそっと優しく握りしめた。

 
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