花を愛でる
訳あり
放課後の図書室。夕焼けが本とテーブルを照らしている。外には野球部とサッカー部の練習に励む猛々しい声と走る音と時よりボールが弾かれる音が響く。少女は1人で本を読みながら人を待ち伏せていた。彼女の名は花宮櫻子、14歳。同い歳の幼馴染の時任悟瑠に呼び出されていた。好意を寄せる異性からの呼び出しに読んでいる本の内容など分からないほど、高ぶっていた。櫻子と悟瑠は近所で幼稚園からの付き合いである。中学生になると悟瑠は女子から容姿や成績の良さで人気になる。櫻子はそれを毎日横目で見ながら、自分の方が悟瑠を良く知っているのに、自分の方が周りより長い関係なんだからと嫉妬していた。しかし、そんな毎日を送っていた日から一転、悟瑠から呼び出し。告白だと期待したり、はたまたま、ただのお願い事か、色々な考えを頭に過ぎらせていた。図書室の古い扉がギィ…っと開く鈍い音がした。それと同時に高鳴る櫻子の心臓。悟瑠が櫻子を見つけ櫻子に向かう。「すまない、遅くなった」「大丈夫」櫻子は本をテーブルに置き、本棚の前に立った。悟瑠は真っ直ぐ櫻子を見つめる。櫻子も見つめ返そうとするも避けてしまい視線は後ろの本達へ。悟瑠は両手を櫻子に当て自分の方へ向かせた。心臓が飛び出てしまいそうで、どの様な表情を向ければ良いかぐるぐると思っていたが、悟瑠を改めて見ると容姿が整っていると感じた。キリッとした一重まぶたに綺麗な筋の通った鼻。しっかりとした線を描く眉。貴公子のようだと櫻子は思った。
「櫻子、別れる前提で付き合って欲しい」
「えっ…」
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