エリート御曹司が花嫁にご指名です
「あ、呼んでるわ。壮兄、行ってきます」
「外で見送ってやるよ。ほら、手」

 壮兄に手を差し出され、目を丸くしてその手を見つめる。

「ええっ? 手?」
「慣れない着物なんだから、転んだら大変だろ。行くぞ」

 強引に私の手を握った壮兄は、玄関に向かう。隣を歩きながら、早く壮兄に好きな女性ができるといいのに、と思わずにはいられなかった。


 ホテルスタッフに案内され、AANホテルの庭園の奥まった場所の料亭へ到着した。

 庭園の美しさに定評があり、何度も来ていてもウットリとしてしまう。また数寄屋造りの料亭も精妙で、目を奪われる。

 略式の結納とはいえ、緊張感に襲われている。胸をドキドキさせながら、室内に入室すると、桜宮家のご両親と優成さんが立って待っていた。

 優成さんは濃紺に細いピンストライプのフルオーダースーツを着ており、男っぷりがよく、ホテルスタッフの女性も見入ってしまうほど素敵だった。

 どこにいても注目を浴びてしまうのは、生まれ持っての気品と、見事な体躯に、センスのよさだろう。

「汐里、とても綺麗だ」

 優成さんに褒められて、頬に熱が集中する。

「本当に汐里さん、美しいわ。振袖は総絞りだわね。艶やかで、よく似合っているわ」

 お義母さまにも称賛されて、落ち着かない気分だ。お義父さまもニコニコと笑顔で、両親と話をしている。

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