エリート御曹司が花嫁にご指名です
男の子に優しい笑顔を向けているのは、優成さんだった。整った彫刻のような横顔は彼に間違いない。そしてそばに立っている女性は、元恋人の西尾さんだ。
 やっぱり、西尾さんのお子さんだった……優成さんのことを『パパ』って……。
 私の心臓が全身に伝わるほど激しく鳴っている。スマホを持っている手も震えてきて、今にも足の力が抜けて、壁にもたれなければ倒れてしまいそうだった。

 こうして見ていることに気づかれてしまいそうで、私は震える全身をなんとか動かしてその場を立ち去った。


 無我夢中で自宅に戻って、リビングのテーブルに壮兄のスマホを置き、ソファの上のバッグを鷲掴みにして自室へ駆け上がった。
 
 頭の中がぐちゃぐちゃで整理ができない。
 
 ベッドの端にガクンと力なく腰を下ろし、両手で顔を覆う。
 
 優成さんは、あの子のパパなの?
 
 それなのに、私と結婚するの?
 
 バッグが振動している。

 中に入ったスマホが着信を知らせているのだと思っても、身体が動かず、ベッドの上で茫然と、先ほどの親子の光景を思い出している。
 
 涙がポロポロあふれて頬を濡らしても、拭う気にもならず、佇んでいた。
 
 どのくらい経っただろうか。窓の外は暗くなり、階下では人の気配がする。
 
 頭の中はまだ混乱していて、どうしたらいいのかわからない。
 
 ひとつだけわかることは、ひとりでよく考えたい。それだけだった。


< 236 / 268 >

この作品をシェア

pagetop