俺と、甘いキスを。

「二人は姿も個性も違うから、陰と陽みたいだって聞いたことがあるわ。だから周りから兄は明るいイメージの「陽」、弟は影のイメージの「陰」と言われているのよ」

そう説明するのは、研究所の本館の受付事務担当である峰岸 真里奈(みねぎしまりな)だ。
明るいブラウンの髪を緩く巻き、目元をパッチリさせたメイクの美人で細身の女の子だ。そして、とにかく足が細い、とにかく目立つ、研究所の看板娘だ。

「去年、兄の右京専務からお食事に誘われたことがあったのよ。彼はまだ独身だけどイケメンだし一度くらいならご一緒してもいいかと思ったけど…お断りしちゃったの」

途端に周りから「えー!もったいない!」と声が上がる。真里奈は「だってぇ」と、巻いた髪の毛先をクルクルと綺麗にネイルされた指で弄びながら口を可愛く尖らせた。

「だってぇ、私は右京蒼士の愛人希望なんだもの」

その一言に、再び周りが「きゃ〜っ、やだぁ」と驚きの声が上がる。

右京蒼士の愛人希望。
峰岸真里奈が右京蒼士と研究所内を歩いているところは、何度か見たことがある。前にその場を一緒に見たちなみが、
「彼女はまるで奥さんのように、右京さんの世話を焼く」
と、言っていたことがあった。

既婚者でも、愛しているから愛人となっても彼のそばにいたい。

真里奈の一途な意志の強さが、一気に私の気持ちを堕落させた。
──彼女は若いんだから、私と違う。
そう思うしかなかった。
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