俺と、甘いキスを。

私は入社して以来、この研究所に気軽に話ができる社員はいない。同期の社員はいるが研究所内で会うこともなく、集まることもないドライな関係だ。
昼食は食堂でなく、二階の空いているミーティングルームで一人でお弁当を食べている。この方がお弁当の中身を見られることもなく、自由に休憩できることが気楽とさえ感じていた。

しかし、昼食時だというのに、この日に限って八つあるミーティングルームは全て使用されている。
「?」
珍しいと思いながら、部屋の前をゆっくりと通り過ぎていく。そして五つのミーティングルームは打ち合わせで使われていたが、あとの三つは甘い告白タイムに使われていた。
ミーティングルームを私用目的で使うのもどうかと思ったが、人の恋路を邪魔するほど自分の性格は曲がっていないと思いたかった。
それに自分も長い年月、昼食にミーティングルームを使っているのだ、文句を言えた義理ではない。

二階の自販機のある休憩スペースは、長いソファが三つ置かれて窓もある明るい場所だ。私は一番奥のソファに座り、お弁当を広げた。
この場所は嫌いではないが、どうしても壁に並んだ自販機に視線が動く。

五年前の自販機での出来事。
私の「けじめ」は全てここから始まったのだ。
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