シンフォニー ~樹
34

あまりにも急な別れの時。

隣に 恭子がいてくれたことが 樹には 大きな救いになった。

報せを聞いて 病院に駆けつけると 恭子が小さな背中を さらに小さくして 泣いていた。
 


機械に繋がれて 静かに眠る お祖父様。

朝の元気な姿からは 想像できない変わり様で。


気が動転して 取り乱す樹を 恭子の泣き顔が 正気に戻してくれる。
 

『落ち着け。落ち着け。俺がしっかりしなければ。』

樹は何度も 心で呟く。

翔や壮馬、泣き腫らした絵里加も みんな 樹を頼っているから。
 

樹だって悲しかった。

初孫だった樹は お祖父様の愛情を 一身に受けたから。

お祖父様に 孫が増えても 樹は特別な存在だったと思う。


お祖父様は 樹に 経営者の自覚と責任感を さり気なく教えていた。


だからこそ 樹は 自分を立て直すことができた。
 


お祖父様の期待を 思い出させてくれたのは恭子だった。


まだ 結婚もしていないのに。

樹と同じように お祖父様を 惜しんでくれる。


樹を 支えようとするけれど 自分も悲しくて泣いてしまう。


恭子は、立派な家族だった。
 


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