シンフォニー ~樹
39

学校が始まった恭子は 自分の家と 樹の家を 行き来する生活に戻る。


お祖父様の 雑多な手続きに追われていた父が
 
「週末、間宮さんが来てくれるから。二人のこれからのこと 相談しようと思って。」

とみんなに言ったのは 落葉が色づくころだった。
 

「これからのことって言っても 恭子が卒業するまでは 何もできないでしょう。」

と、樹がおっとり言うと、
 
「営業マンが そんな呑気でどうする。」

と父は言い、

「そうよ。約束だけでもしないと。間宮さんだって心配でしょう。」

と母も同意する。
 

「仲良いじゃない。」


照れ隠しに 両親を茶化す樹を無視して 父は意外なことを言う。
 

「恭子ちゃんが一緒に住むこと 間宮さんが納得してくれるなら この家を建替えようと思うんだけど。どうかな。」

みんなが初めて聞く 父の考えだった。
 

「いいじゃない。この家、建ててから随分経つもの。ちょうどよい機会だわ。」

最初に言ったのは、お祖母様。
 
「そうね。使い勝手も悪いから。若い人向きに、今風にね。」

母も頷く。
 

「恭子の家も古いから。何も 抵抗は感じてないよ、恭子は。」

樹が言うと、

「いずれ 建替えるなら 最初からの方が いいだろう。ただそうなると その間 仮住まいをしないといけないから。」

父は、お祖母様を見る。


慣れない場所での生活に お祖母様が 我慢できるのかを心配していた。
 


「マンションで空いている所 ないの?」

母は父に聞く。

うちが所有しているマンションが 何軒あるのかも知らない樹。
 

「私は大丈夫だよ。ずっとじゃないし。」

お祖母様は、いつも前向きな発展家だ。


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