シンフォニー ~樹
11

レストランまで移動する間 すれ違う人達が 絵里加の美しさに 振り返る。

ロビー、エレベーター、レストランのクローク。

振り返る人や、笑顔を投げかける人を 指を折って数える 恭子。
 

「すごい。18人。すれ違った人全部。」

個室に通されて 席に着くと言う。


樹は明るく笑ってしまう。
 
「恭子ちゃんに 振向いたのかもよ。」樹が言うと、
 
「私、足太いから?」

家族写真の為に、制服姿の恭子。

スカートが 少し短めだから。


はっとした顔で言う恭子に、
 
「可愛いからでしょう。」

樹が言うと、すっと照れた顔をして、
 
「もう。からかわないで下さい。」

と切り返してくる。


樹は今日、この子に 救われたと思っていた。


たかが高校生なのに。
 

恭子は、真っ直ぐな瞳で 樹を見る。

純粋で素直な目。

絵里加とは 違うけれど その瞳は 樹を温かい気持ちにする。


丸顔で優しい顔立ち。

元気だけれど 不躾ではない育ちの良さ。

樹に 心を開いて “お兄さん” と懐いてくる。


絵里加に失恋して どうかしたのかと 樹は思う。

今まで、たくさんの女性に 近付いて来られても 何も感じなかったから。


まだ あどけない高校生の 恭子に、心が動いている。

まあいいか、しばらくは。

絵里加への思いを断ち切れるなら。

恭子に 擬似恋愛をしても。



恋は、そんな偶然からも始まる。
 
 


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