シンフォニー ~樹
14

樹の 中途半端な告白に、素直に 付いて来る恭子。

樹の不安を 打ち消して、普通の態度を貫く。
 

「お兄さん、今日の帰り、寄ってもらえますか。恭子が お土産買ってきたので。」

健吾からの 連絡を受けたとき 恭子の態度が 不自然にならないか 樹は 少し不安だった。

健吾と絵里加に、気付かれてしまわないか。

でも、恭子は 完璧に演じる。
 
「はい。これはお兄さんの家に。」

とチョコクランチの缶を 差し出す笑顔に 全く違和感がない。
 
「ありがとう。みんなにお土産買って、お小遣い 減っちゃったね。」

樹も、シラを切り通す。
 
「そうなんだけど。ちょっとずつ回収するから、大丈夫です。」

恭子は、明るく笑う。

言葉の意味がわからない樹に、
 
「恭子、うまいんです。参考書買うとか、模試があるとか言って、お袋から お金取るんです。」

健吾が 恭子を見ながら言う。

樹は声を出して笑う。

必要な分しか お小遣いを与えない、健吾の両親に 感心しながら。
 

「いいお母さんだね。案外、恭子ちゃんに 騙されたふりを しているだけかもよ。」

樹の言葉に ギクッとした顔の 恭子。
 
「やめて下さい。急に家が怖くなった。」

恭子は、真顔で言う。
 

「大丈夫、大丈夫。恭子ちゃん、役者だから。」

樹は声を出して笑う。

今日の演技も上手いよ、と言う目で 恭子を見て。


恨めしそうに 樹を見つめる恭子。

樹の胸に 愛おしさが湧き上がる。


先に白状してしまうのは、自分かもしれないと思いながら。
 


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