シンフォニー ~樹
23

四月は それぞれが 新しい季節になった。


大学生になる恭子。

経理から営業に異動になった樹。

健吾は 間宮化学の工場で アルバイトを始めた。

新しい環境での生活は みんなの成長へのステップ。

期待と不安を抱えながら みんなが 前向きに受け止めていた。
 


入学式前の週末に デートをした二人。


約束通り ティファニーに 指輪を買いに行く。

恭子が 選んだリングは 真ん中に 小さなダイヤが付いた プラチナリング。


早速はめて嬉しそうに微笑む恭子。
 

最近 髪が伸びて 大人っぽく 綺麗になっていく。

優しい丸顔に クリクリと丸い目。

少しだけ大きな前歯を見せて ニコッと笑うと 小さなエクボができる頬。

きめの細かい白い肌に ゆるく巻いた髪型は とても良く似合う。
 


「恭子、可愛いからなあ。男子に 声掛けられたら 嫌だなあ。」
 
「大丈夫。これが目に入らぬか、って言うから。」

嬉しそうに 指輪を見せて 恭子が言う。

樹は、声を出して笑ってしまう。
 

「だから、婚約指輪っぽい デザインを選んだの?」

樹は ダイヤが一巡した ファッションリングを勧めたが 一粒ダイヤのリングを選んだ恭子。

頬を染めて頷く恭子に 樹の胸を甘い感動が溢れる。
 


「ありがとう。」肩を抱いた腕に 力を込めて言う樹。
 
「私こそ、ありがとう。売約済みの証拠だよ。」

そう言って寄り掛かる恭子に 樹はふと思う。

大切に守る樹に もしかして恭子は 不安になっているのか。


付き合い始めて半年。

お父さんとの約束とは言え 踏み込んでこない樹に もどかしさを感じているのかと。
 



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