松菱くんのご執心
「どうしたのみかさ。いや、すごく嬉しいんだけどさ」


と言う爽の左腕のシャツを肘まで捲る。その行動に爽は一瞬たじろいで腕を庇う仕草をした。


「ちょっと」と苦い顔をする。


「ねえ、これはなに」


「少し引っ掻いて……」目を泳がす爽。



 誰が見ても引っかき傷では無い。
先の鋭利なもので何度も切りつけた跡だ。


痛々しい傷跡に眉をしかめる。



「お願い、正直に言って」


爽は諦めたように「ごめん」と言った。


「いつから」


「二週間くらい前から」


「なんでよ……。とりあえず保健室に行こう。
放っておいたら膿んでしまうかもしれないし、傷にバイ菌が入ったら大変だ」


「うん」


 保健室には先生が留守だった。爽を椅子に座らせ、戸棚から救急箱を見つけて、消毒液と絆創膏を取り出した。


「ちょっと染みるかも」


「……っ」


「我慢して。すぐ終わるから」


 消毒を済まして絆創膏を貼った。
俯いたままの爽は貼り付けた絆創膏をじっと眺めて、


「明るく振る舞うってのは、結構疲れるね」


とぽつぽつと話し出した。


「みかさは明るくて、芯のある女の子だ。
だけど俺はその正反対の性格で、地味だから、みかさの気を引いてると思われるのが嫌だった」


「だから、眼鏡をやめて、髪も切ったと」


「うん。でも、違った。俺は間違ってた。みかさは俺が変わる前より話してくれなくなった」


「それは……どうだろう。わたしにもよく分からない」


 言い逃れられると、この時は思っていた。
 爽が絆創膏をうっとりと撫でる。

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