松菱くんのご執心
「ちょっと想像できた。かっこいいね、三木さん。でも、犯人って?」


 わたしの語尾に答えることはなく、


「そう、時々かっこいいんだよな」



 松菱くんはその時のことを思い出したのか、ふっと表情を和らげて、懐かしんでいた。


「でも喧嘩はやめなかったんだ?」


「その時の俺は、三木さんがくれる言葉のありがたさを分かってなかった。
目的を忘れて喧嘩することが生き甲斐になってたもんだったから、

うっせえ黙れって一蹴りだ。

………あ、でも今はしてねえぞ、喧嘩」



 三度目の正直ならぬ、二度目の正直で喧嘩することから足を洗ったのかな、とか思ったりした。



「で、最近気づいたことがあるんだ」


「なに?」


「人間が生涯において、良くも悪くも最も力に変えられる感情はたぶん、愛情だな。
みかさへの愛情、これが確かに今の俺の原動力になってる」


「だいぶ悟って、だいぶ告白の念押しをしてくるね」


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