松菱くんのご執心
そんなこんなで、ついに岡野が名前を呼ばれた。険しい顔で用紙を受け取る。



「どうだったのかな」


「あの顔はどういう顔だ。良かったのか、悪かったのか」


「ここからじゃよく分からないね」



 この時のわたし達は、我が子の晴れ舞台となる発表会で、

楽しみにしながらも

「あの子、上手くやれるかしら」と心配の絶えない両親のようだったかもしれない。



 岡野は紙にぐっと顔を近づけては離し、
眼鏡をずらして近づけては離し、


険しい顔は変わらず、わたし達の席へずんずんとやってきた。



「やばいよ」


岡野は放心状態だった。


「僕、おかしくなっちゃったのかな」



「ダメだったのか?」


「み、みて」


テスト用紙を岡野は震える手で差し出した。わたし達は顔を見合わせ、二人して覗き込む。


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