松菱くんのご執心
「すみませんね、うるさくて食べたらちゃっちゃと出ていきますんで」


と戸黒さんが宥める。


「いえいえ、ゆっくりしていってください」



教室内の温度が上がり活気に満ちていたため、

ある意味、心からの言葉だったのだが、松菱くんはそうじゃなかった。



「そんな事言ったら三木さん、いつまでもここに居座るぞ」


「松菱くんの活躍を見に来てくれたんだから、それでもいいんじゃない?」


「良くねえよ」と松菱くんは笑う。



「忙しいから食ったら帰れよ」と言って踵を返し、

わたしの手をとって歩いた。

そんな彼の足取りは軽い。



「へいへーい」と三木さんの声が背中越しに聞こえた。


「お幸せにー」とも。


なんだ、もう三木さんに話したんだ。


何でもすぐに話しちゃって、恥ずかしいなあ、とちょっとだけ俯く。



握られている手が視界に入った。



 私の手をすっぽりと包み込んでいて、線の細い骨ばっている手。


この優しくて、安心する手が喧嘩をしてたなんて今じゃ想像できない。


わたしは松菱くんの手をギュッと握り返した。




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