僕が愛しているのは義弟



 心が穏やかになる春の香りに包まれながら歩いていると、あっという間に思い出の場所に着いた。


「やっぱりいつ来てもいいね。すごくきれい……」


「ああ、そうだな」


 この場所はいつ来ても変わらない。

 変わらずに、ここに来る人たちを感動させてくれる。

 この場所の最高の美しさはいつでも健在。


 この美しい空間に葵と二人でいることの幸せ。


 オレと葵は今、無言でこの美しい空間に浸っている。

 なにも会話をしないで葵とこの空間に浸っていることの幸せ。


 そのときオレは隣にいる葵のことを考えていた。


 葵が中学校卒業……。

 葵の中学生としての三年間は早かったようなそうでもないような……。

 でもそれはオレが葵の中学生としての三年間の時の流れの感じ方を勝手に思っただけで、葵自身、中学生としての三年間はどういう三年間だったと思っているのだろう。

 短く感じたのか長く感じたのか、どんなことが思い出に残ったのか……とか。

 オレは葵にとって三年間の中学校生活が良い思い出になっていてほしい……そう思った。


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