恋泥棒の犯行予告

「日世くんも悪かったね、他所の家の問題に巻き込んでしまって」

「いえ。他所の家っていうか、もうほとんど家族のようなものなので」

「なんだい、それはプロポーズか?」


お母さん、おれは反対したほうがいいのかな、と後ろに立っていたお母さんにそう問うた。

さっきまでの怖い顔はどこへ行ったのやら、完全に娘の恋路を囃し立てる、ウザがられる父親の顔をしている。


「反対する理由もないでしょうよ。こんなに素敵な男の子なんだから」

「ちょっと、お母さん、日世が困るよ」

「いいじゃん、楽しくて。一件落着って感じ」


おやすみ、と小さくつぶやいてお父さんが自室へ戻っていく。

その姿が見えなくなった途端、私たちの無意識に張りつめていた空気が目に見えて緩んだ。


「ふぅ……」

「六花、よかったわね」

「ほんと、ヒナのおかげだよ……もう、あの頑固おやじ」

「勢いに任せて付き合ってるのバラしちゃったけど、大丈夫だったよね?」

「むしろありがたいよ。言ったら浮かれてるって怒られそうだったから……」


進路の話をしても機嫌を悪くするような人に恋の話なんかふれるかっての。

気が抜けて床にへたり込んでいると、ヒナの手が伸びてくる。


「上からだとばっちり痕が見えるから、明日はしっかりボタンしめて生活してね」


ゆっくりと引き上げられてヒナの腕の中に閉じ込められたと思ったら、耳たぶを軽く咬まれた後に耳元でそう囁かれた。


「六花、大切にされてるのねぇ。ほんと日世くん優しくて素敵」


いや、あの、うん。

この男、お母さんが思うほど優しくないよ。
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