春の雪。喪主する君と 二人だけの弔問客

それは雪の女王の喪服かな

ひた、ひた。って、

『雪の女王』の宮殿をいく、少年と少女の足も、これぐらい 冷たい床を歩いていたんじゃないかと思う。と、今、シオン足元から ゾワっと 冷気を、感じた。

ここが、『雪の女王の宮殿』なら、さながら洞窟のように、ぽっかりと 扉が空いた玄関は 迷宮の入口だ。そんな空気では、なじみのスリッパといえど、とても 履く気持ちには シオンだって ならなかった。冷たいだろうに、何故かレンも、履かなかった。



もう来てすぐなのに、 寒いし、怖いし、吐きそうかもだし……。


こんなにも、喉の奥から 叫びたい気持ちが沸き上がるもの?
それでも、何も口から、出せない変な 自分は 何を こんなに堪えている? 今。

そう、1階のリビング横の畳部屋に、布団が少し見えたのが シオンには、てきめんに 駄目だったのだ。

ああ、マスクのせいで 息苦しいのかも。

レンのジャケットを、自分のスプリングコートの上から、肩に引っ掻けているだけのシオンは、
首もとをギュッと片手で、握って、そのジャケットに顔を 少し埋めるようにする。

そうすれば、ジャケットから マスクごしに、 微かな レンの 匂いがして、胸の辺りの緊張が ホッと緩むのだから、と 自分にシオンは言い聞かせる。

もう片方の手は、しっかりと
レンが繋いでいる。シオンは何度も そうレンの手を確認するが、気を抜くと 背中が 強張るようになってしまうのは どうしようもない。

シオンが 幼稚園より 中学まで、夏の度に 遊びに来ていた場所だ。さっき、照明器具さえなかった 洋館にくらべれば、電気も光々と、レンが点けてくれている。

どうして、こんなに、焦る?!。
そんな 答えは 解っている。
つい、シオンが この家にの雰囲気に、

叔母の 死した 妄想を 纏わせるからだ!!



「ごめんね、レン。余計な事させてる。」

いつになく、弱気なシオンを 振り返り、レンはマスクの上見える 目を少し細める。

「心細いね。シオンも。」

「うー、、レン、、なんか しゃべって。」

まだ昼を過ぎて 暫くだが、雪で辺りは どんよりとしている。
薄暗い、玄関から 電気をつけながら、レンが前に立って進んでくれるのに。シオンは まともに 周りをみれない。

「なるべく、電気を点けて 明るくするね、シオン。」

レンは、シオンの要望に応えて、声を掛けてくれる。
「でも、すぐ出るから、カーテンは開けないよ。いいかい?」
「ほら シオン、埃で、足が汚れてない?」

「だ、だいじょうぶ 、だよ、レン。」



さっきの洋館に比べれば、生活感のある荷物の量は、半端がない。

というより、シオンが 最後に来た夏の休みとから、そのまんま残っている?そう 1階を見て、感ぜる得ない。
ただ、リビングと その奥の和室は、なんだか ごちゃごちゃしてる?

「2階の寝室、 クローゼットの中だと思う。シオン、階段、上がるよ。」


「なら、上に、あたしも、上がっていいかな?」

「うん、足元、気を付けてくれ。」

途切れないよう、レンの 『お喋り』に シオンは ついていく。

リビングにある螺旋階段をレンは登り出し

「家族以外は、誰かを2階に案内するのは初めてだな。」

と、急に思い立ったような 心よい声でレンが 言った。瞬間レンの、背中が 嬉しそうになった?。かもしれない。

その後を、手を繋いで シオンも上がる。

「初めて、2階に来たよー」

だからつい、階段を登って シオンも言葉にしてみた。
やっぱり ちょっと 嬉しいかも。
そういう プラスの感情を、この家に入って初めてシオンは 見つけた。


2階は、叔母家族の 完全なプライベートな場所。

シオンにとって いつもの夏は、ベッドが備えられた 1階の客室と、大きなリビングが、夏休みの叔母夫婦の家で 記憶ある場所だった。

リビングのソファーダイニングで 宿題をしたり、そのこで レンに勉強を教えてもらったり。

確か、1階には、書斎と そこに通じる応接室。
簡単な遊戯室があった。

雨の日に、三人で卓球をしたり、レンとルイが 叔父の真似をして、ビリヤードをするのを、シオンが眺めた部屋。

なにより 吹き抜けのリビングにある、この螺旋階段の 手すり。
子供の時の レイとルイは 跨ぎ滑って 1階に降りては、叔母に怒られていた。

2階に上がると、ほっとシオンは、下より 気持ちが落ち着く気がした。
少しだけ 余裕がでて、ドアプレートで『REN』と付けられたドアと 『RUI』と付けられたドアを 見つけると、現金にも 中に興味が沸く。
二人の部屋には、何があるだろうか?

しかし、レンは、さらに置くのドアに向かって、その中に入っていくので、シオンは仕方なく 追随するしかない。

部屋は広い寝室で、2台ベッドがある。叔母夫婦の部屋だ。

レンは、壁にの一面いっぱいに備え付けられた クローゼットの引きドアを開ける。

沢山の叔母の 洋服の間に、さがしていた喪服は ハンガー掛けをしてあった。

フロントにウエストマークがある、ノーカラージャケット。
セットのワンピースには、胸にシフォンを使っている。

プリンセスラインワンピースがスレンダーなシルエットを造る、可憐な印象の喪服。

若い時分に、叔母が ハイブランドを意識して、オーダーメイドしたものだと、シオンは知っている。


喪服は、きっと年齢毎に 揃えたのだろう、何着かあったが、シオンは最初にレンが出して来た物を 傍らのベッドに置いた。

「着ること、出来る?、シオン。」

レンは シオンの顔を、下から覗くようにして 聞いてくる。
その目は、案ずるよう。

ハンガーのまま、シオンはその喪服を2つに折り返して、

「大丈夫。これ、持っていく、レン、ありがとう。」

と、笑顔を作って レンを安心させる。
それなのに、
シオンは また、ぎゅっと 首もとを片手で握り締めた。

応えるように、
レンが片方、繋いだなままの手の握力を 強めた。



早く、早く、この家の 外へ、
何かが 追いかけてくる この感覚から、

早く、
外へ。


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