未来は霧のなか

始業式の翌日 授業が始まる前に 美佐子は 木本に呼ばれた。
 
「美佐子。ワニ、何の用事だった?」

戻ってきた美佐子に、私は声を掛ける。
 
「これ。停学の間に 書いた反省文。見せてあげようか。」

美佐子は、一冊のノートを 私達に差し出す。
 


「見たい、見たい。」

私達は ノートを取り合い 読む順番を ジャンケンする。
 

授業中 こっそり回し読みした 美佐子の反省文。


毎日、真面目に書いてある。
 

「はい。ありがとう。美佐子、ちゃんと書いてあるじゃん。」

最後に呼んだ典子が、美佐子に返す。
 

「でしょう。私 案外 偉いでしょう。」

得意気に笑う美佐子。
 
「まあ、本心ならすごいよね。」

輝美に言われて 美佐子は ケラケラ笑う。
 


「本心の訳、ないじゃん。『木本先生の温かい心に感謝して、これからは数学も頑張ります』って。な訳ないでしょう。」

と美佐子は 開いたページの 一節を読む。
 

「コラコラ。本当に頑張りなさい。」

私が笑うと、みんなも 笑いながら頷く。
 


「でもさ 今回の件 木本と信太郎が かなり頑張ってくれたらしいよ。信太郎 美佐子に悪いと思っているんじゃない。」

輝美が、お姉ちゃん情報を 披露する。
 

「木本はともかく 信太郎は まだ足りないよ。」


美佐子は 少し 上を向いて言う。


もしかして 美佐子は、まだ信太郎が 好きなのかもしれない、と私は 漠然と思った。
 



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