ぜんぜん足りない。



「こおり君、」

「………」

「ねえ、ってば」


返事がくる気配はナシ。

仕方ないから、さっきの言葉の意味を考えることにする。


わたしはすぐ泣くしすぐ喜ぶしすぐ怒るし、全体的に面倒くさい……

けど、それでも付きあってるんだ、ってこと。

……の、意味。



「都合のいい女だから?」



聞いてみても、やっぱり返事はこない。



「わたし、こおり君のそばにおいてもらえるだけで幸せだよ。ありがとう」


反応がないこおり君に、ぎゅっと抱きついてみた。


「なのに、足りないとか言ってごめんね。那月ちゃんに嫉妬してごめんね。学校で話したいとか、ワガママ言ってごめんね……。がんばって直すね」



相変わらず無言。

だけど、こおり君の腕にも、少し力がこもった気がした。



その数秒後、


「学校でも話したい?」


こおり君の口から思わぬ言葉が。



「っ、うん」

「いいよ」


「……え!?」

「噂が立たない程度でよろしく」



声だけで、こおり君が薄く笑ってるのがわかった。



「ぜったいバレない自信、あるんでしょ?」


煽るような口調。

ぶわっと体が熱くなる。

こおり君の腕の中で、「うん」って、何回もうなずいた。


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