ぜんぜん足りない。

「……っ、ぅ、ん」


押しつけて、噛んで、こじあけて……もてあそぶ。

ちゅ、っていたずらっぽく吸い上げられるのが好き。わざとらしいリップ音が甘い感覚を助長する。



「応えて、桃音」


誘い込むように腕を引かれて体が密着した。


ラインをたどって指先までたどり着いたこおり君の大きな手。
重ねられると、胸の奥がぎゅうっと締まった心地がした。


ずるい。
そっけないくせに、甘やかすのが上手だから。



「ん……っ、はぁ」

酸素が足りないけど、足りなくてもいいや。なんて危うい思考に陥りかけたころ、こおり君は唇を離した。



「今日、やけに従順だね」


そんな声には答えずに、こおり君の胸に顔をうずめる。


──────だって、触れてないと不安だったから。



“あの頃” みたいに、近くにいるのにちっとも会えない、のは……もうイヤなの。

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